世界が逆転した日
「明宏はそんなに俺の声が好きなの?
この声がなかったら俺のこと...。」


そこまで言いかけて俺は口をつぐんだ。
こんなこと聞いてどうするんだ。
明宏を困らせるだけなのに。


「それでも好きですよ。ずっと、ずっと好きです。
俺はあっちゃんがデビューしてから8年間片想い...という言い方はおかしいかもしれませんが、ファンでした。

小さな頃から一人で友達もろくに作れなかった俺にとって、あっちゃんの歌だけが支えだったんです。
あっちゃんの声は全てを包みこむような優しい声だから。
俺にはもう、あっちゃんの声を聞かなくても聞くことができるんです。」


声を聞かなくても聞けるなんて、そんなことあるわけないんだけど。
それでも、明宏の言いたいことはなんとなく伝わってきて胸が温かくなると同時に苦しくなった。

明宏、俺も好きだよ。

明宏は何度も好きだと言ってくれるのに、俺は一度も言えたことがない。
いくら今は女だとはいえ、26年間男として生きてきた俺が男の明宏に好きだと口に出して伝えることはそう簡単なことではない。

行動では伝えることができても。
3つも年下の明宏がどうしようもなく好きだなんて、そんなこと言えない。

言えないんだよ。
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