世界が逆転した日
だけど。

この世界の俺はたくさんのものを持っているけれど、本当に俺の欲しいものなんて何一つ持っていないんだ。

だってこれは俺が努力して手に入れた結果じゃない。
何の努力もしないで手に入れたって、むなしいだけなんだ。

家族も、俺を大切に育ててくれた家族じゃない。
よく似ているだけの別人だ。
友達もそう。

ここは、今まで辛いことがあっても必死で生きてきた俺の世界じゃないんだ。

いつも俺を助けてくれて、愛してくれた明宏はもう、いない。

あっちゃんのそばにいられない世界には行きたくない、と以前明宏が言ってくれたけど、俺も同じだってことに、やっと気づいたよ。

一度も好きだと伝えることができなくて、すごく後悔してる。
変なプライドとか元は男だとか、そんなことよりも大切にするべきなのは、その気持ちだったのに。

もう二度と伝えることはできないなんて。
もう二度と明宏に抱きしめてもらうことができないなんて。

そんなこと信じたくないんだよ。

< 150 / 203 >

この作品をシェア

pagetop