年上の花嫁。年下の花婿。
過去へと意識が飛んでいた頭に甘やかな声が届く。
「はい。誓います」
隣から聞こえた男の声に、あぁ、式の最中だった、と思い出す。
寝坊はするわ、式は上の空だわ、花嫁にあるまじき暴挙だなと、心の中で苦笑する。
まぁ、世の一般的な花嫁のように、幸せいっぱいオーラなんてものは逆立ちしても出せないが、それなりに場を取り繕うだけの演技はせねばなるまい。
周りから見れば、私は少しばかり(?)年増なシンデレラ・ガールだ。
緩やかに笑みを浮かべて、神父を見れば
"ほんとにこれでいいわけ?"
車での智里の言葉が脳裏をよぎる。
式の当日に、無意味でしかない問い掛けをせずにはいられなかった彼女の心配は、私の心を暖める。
大丈夫だ。私の微笑みは全てが虚飾な訳じゃない。
私に向かってお決まりの台詞を問い掛ける神父様でもなく
隣に立つやたらリッチな年下男でもなく
(もちろんカミサマなんて論外だ)
相沢夏樹、今日から片桐夏樹は自分自身にこれを誓う。
私は、仕事の為に結婚した。
この先何があろうと、後悔だけは自分に許さない。
「はい。誓います」
幸せな二人の門出を祝うため、教会の鐘が鳴らされた。