愛するということ
「・・・くそっ!」



拓馬にむけた怒りを、消化することなく自分の部屋に戻ってきた俺は、もっていた雑誌を壁に投げつけると、いくらか落ち着いてきた。


拓馬の言葉に一瞬傷ついた表情をした瞬。
ほんの一瞬だから、あの場にいた誰も気づいてはいないのだろうけど

いつからだろう

瞬が時々、笑いながら寂しそうな顔をするようになったのは


『気が強くて、いつも元気な瞬』


たぶん、他の誰もが疑うことのない瞬の姿だ。



いつからか、瞬が人前で泣かなくなったことが、『強い瞬』を仕立てているんだろうけど


だけど――


瞬は、泣かないんじゃない。

人前で泣かないだけで、1人で泣いているんだ。


瞬が泣いているところを見たわけじゃないけれど、なんとなくそう思う。
誰も気づいてないんだろう。
瞬でさえ、俺がそう思っていることを知らないんだろう。



瞬が、人前で泣かない理由――


それを俺が知っているからだろうか。




俺たちのオヤジは、俺が11歳の時、突然倒れて、あっという間に逝ってしまった。
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