12年目の恋物語
「いらっしゃい」
出迎えてくれたのは、エプロンをした庶民的なお母さん、
……とは、まったく違っていて、
化粧も髪型も完璧、高そうなヒラヒラした服を着た、見るからにセレブな女性。
奥の階段から、広瀬が駆け下りるのが見えた。
「おう! 入れよ!」
不覚にも、いつもと変わらない広瀬の明るい顔を見て、妙にホッとした。
「お邪魔します」
先に、寺本が玄関を上がり、如才なく、手土産らしき紙袋を渡す。
……そんなもん、持ってねーし!
休みに友だちんちに行くのに、手土産っているもん!?
一歩遅れて、玄関を上がり、思わず、広瀬の肩に手を置き、
「悪い! オレ、手土産とか、気が付かなくて……」
と言うと、広瀬はカラカラっと笑った。
「そんなん、男は用意しないだろ~」
ホントか?
セレブ家庭でも、ホント~に、それでいいんか!?
疑いは残しつつも、広瀬が明るく言った「そんなこと、気にすんなよ~」という言葉を信じることにした。
何にしても、持って来てないものは持って来てない。
今さら、じたばたしても、どうにもならないんだから。
広瀬の部屋に上がっても、やっぱり驚愕。
オレの部屋の3倍はあるぞ、おい。
てか、オレんちのLDKより広い気がする……。
「座れよ」
と言われた視線の先には、ローテーブルと床置き型の大きなソファタイプのビーズクッションが5つ。
こんな普通の家のリビングにありそうなもんが、子ども部屋にあるって、何なの。
……いや、既に、子ども部屋って概念じゃ、語れないか。