12年目の恋物語
「さすが、叶太くんち、大きいね~」
「そう?」
……いや、そうだって。
「広くて羨ましい」
寺本が、本気で羨ましそうではなく、軽いノリで言う。
その言い方から、きっと、コイツの家も十分な広さがあるんだろうと、思う。
幼稚園や小学生の頃から、エスカレーター式の私立に通うヤツらは、やっぱり違う。
また、ため息。
今朝から、何回目だ!?
「どうしたの?」
寺本が聞いてくる。
「……いや、世界が違うなぁと思って」
別に羨ましいとかは思わない。
それは、ホント。
オレは、物欲はそうない方だから。
ただ、あまりに違うから、何というか、違い過ぎていてギャップが……。
「え? うちは庶民だよ」
と、寺本が言う。
「……なに言ってんだよ。ベンツに送られてくるお嬢様が」
ヤバッ!
嫌みか、オレ!?
言ってから慌てたけど、寺本は、まったく気にならないらしく、ケラケラ笑った。
「車はベンツだけどさ~。
送ってくれたのは、たまたま、こっちに用事がある……って言って、
ただ娘とドライブしたかっただけのお父さんだし」
いや、車がベンツな段階で、十分じゃね?
「うちはしがない町医者だよ」
「って、医者か! 十分、金持ちじゃん」
寺本が、うーんと言うように、首を傾げた。
「大病院ならともかく、うちなんか小さなクリニックだし、そんな儲からないんだよ。
小さな会社の社長さんちのがリッチじゃないかなぁ?」