12年目の恋物語
慣れた手つきで、優雅にお茶を注ぎ、ケーキを並べながら、
「お二人とも、同じクラスなのでしょう?」
と、広瀬のお母さん。
「はい」
寺本とオレの声が重なる。
「陽菜ちゃんも一緒よね?」
笑顔で聞かれて、オレは一瞬、ドキッとしたのに、寺本は平気で、
「はい! 仲良しです」
と、にっこり笑って答えていた。
いや、別に、何も後ろめたいことはないんだけど……。
「陽菜ちゃんも一緒に遊びに来られたら、いいのだけど」
と言いながら、お母さんの上品な笑顔が曇った。
「え!? ハル、どうかした?」
素早く反応する広瀬。
「調子が悪いんですって」
お母さんは、ティーカップを配る手を止めた。
「昨日、クッキーが美味しく焼けたから届けに行ったのだけど、寝ているからって会えなかったわ。
響子さん、心配してたけど、大丈夫かしら?」
響子さん?
「あ、響子さんって、ハルの母さん」
広瀬が、オレと寺本のために注釈を入れてくれた。
「それで? どんな具合なの?」
「あら、あなた、知らないの?」
と聞き返され、広瀬は苦虫をかみつぶしたような顔になった。
オレたちはその表情の理由を知っているけど、お母さんは知らないらしい。
「後でお見舞いに行ってらっしゃいな」
「……あ、うん」
歯切れの悪い広瀬。
それを見て、お母さんは首を傾げた。
きっと、いつもの広瀬の反応じゃ、ないんだろう。
「食欲がないみたいだけど、ゼリーなら喉ごしもいいし、食べられるんじゃないかしら?
陽菜ちゃんが好きな果物で作っておいてあげるわ」
そう笑顔で言うと、広瀬のお母さんは、優雅に会釈して、部屋を出て行った。
少しして、お母さんの出て行ったドアに目を向けたままの寺本が、
「……ホント、家族ぐるみのお付き合いなのね」
と、感心したように、ホウッと息を吐いた。