12年目の恋物語
「……え?」
寺本が、その言葉に驚いたような声を上げた。
「ハル、な。生まれたとき、1年、生きられないって言われたんだって」
重苦しい沈黙が流れる。
「1歳になったとき、よく頑張ったけど、3年はムリだって言われて」
ぽつりぽつりと、広瀬が語る。
「3歳になったとき、10歳までって言われて」
語られる言葉の重さに耐えかねたように、寺本が口を挟んだ。
「なんで、叶太くんが、そんなこと知ってるのよ!」
確かに。
幾ら、家が隣、10数年来の幼なじみだからって……。
「ん? 大人ってさ、口軽いんだよな」
広瀬が寂しそうに言った。
「さすがに、親は言わないよ」
広瀬は、オレを見て、困ったような表情を見せた。
「でもさ、オレんちも、ハルんちも、お手伝いさんいるじゃん?
仲良くてさ、で、口、軽いんだよな」
広瀬は、そのまま、握りしめた自分の拳に目を落とした。
「そりゃ、あの人たちだって、親の前じゃ言わないよ?
だけど、子どものオレが側にいても、けっこう平気で話すんだよ。
ハルがまた熱出したとか、そんなん、可愛いもんだけど。
また発作起こして、あ……危ないらしい、とか、……そんな話も」
広瀬が、両手で頭を抱え込んだ。
「で、でも! もう、陽菜、15歳じゃん!」
たまりかねたように寺本が叫んで、
広瀬が、頭を抱え込んだまま、それに答えた。
「10歳のとき、もう大丈夫かも知れないって言われて、
だけど、中1の冬、12歳のとき、また倒れて……」
寺本が、あ、と小さな声を上げた。
「……それ、覚えてる」
「おまえ、知らないだろ?
あのときだって、ホント、心臓、何回も止まって、」
広瀬は、それ以上、何も言わなかった。
後は、言葉にならなかった。