12年目の恋物語
「こんにちは~」
と入ってきた田尻さんは、体操服。
……そうか。
田尻さんのクラスとうちのクラスは、体育の時間、ペアになる。
男子と女子とに分かれて授業をするから、うちが女子の、田尻さんのクラスが男子の更衣室になる。
教室に戻らずに、直接、保健室に来たんだ。
見るからに元気そう。
パッと見て、怪我も見当たらない。
嫌な予感がした。
その予感通り、田尻さんはわたしの方に、真っ直ぐ近づいてきた。
もう、保健室を出ようと思って立ち上がっていたから、寝たふりもできない。
「ちょうど、よかった」
田尻さんは、そう言って、笑顔を作った。
「牧村さんと話がしたかったの。
すれ違いにならなくて、本当によかったわ」
笑顔なのに、
田尻さんの目は、まったく笑っていなかった。