12年目の恋物語

「どこがいいかしら?」



促されるままに保健室を出た。

田尻さんは、キョロキョロと辺りを見回す。



「そこから、外に出ようか」



田尻さんが指さしたのは、校舎の裏に続くドア。

その向こうにあるのは、4月、呼び出されて連れて行かれたのと、同じ場所。



イヤだ。

行きたくない!!



だけど、田尻さんは、わたしの気持ちなんて置き去りで、どんどん歩いて行ってしまう。



このまま、逃げ出したい。



だけど、たまに、振り返る田尻さんの目は、逃げることなんてゆるさないと、語っていた。



わたしは走れないから、

だから、今、逃げ出しても、追いつかれる。



話したくないって、言っても、きっと、ゆるしてなんかくれない。

田尻さんの鋭い視線から、それが、よく分かった。



4月、最後の日。

よく晴れた、いいお天気だった。

呼び出されて、なんの話かしら、なんて、のんきに出かけて行ったわたし。



外に出ると、青い空が見えて、

空気はとても澄んでいて気持ちよくて。



なのに、そこで聞かされたのは、思いもかけない話で……。



わたしの心は、凍り付いた。





「叶太くんを解放してあげて!」



「いつまで、縛り付けるの!?」



「叶太くんが、なんで、あなたのことを、あんなに世話を焼いていると思ってるの!?」



「叶太くんが、なんで、あなたに優しいと思ってるの!」



「あなたの身体のこと、責任を感じているんじゃない!!」





田尻さんの言葉が、脳裏に浮かんでは消える。



現実を突きつけられたあの日から、

もう、ずっと笑っていない気がした。
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