12年目の恋物語
「おい、広瀬、チャイム鳴ったぞ」
斎藤が、オレの肩をトンと叩いた。
「……んあ?」
思わず間抜けな声を漏らすと、斎藤は呆れたように肩をすくめた。
「まあ、おまえのハルちゃん狂いは、入学した瞬間から聞き及んでたけどな」
オレのハル狂い?
失礼な。
ハルが世界一大切で、それを態度で現してるだけじゃないか。
「てか、ホント、そろそろ自分の席に戻れよ、担任来るぞ」
「ああ」
ようやく、オレは斎藤の隣の席を立ち、2つ前の自席に戻った。
「あ、そう言えば、牧村、今日、休み?」
思い出したように、斎藤が聞く。
斎藤が「ハルちゃん」と言うのは、オレをからかう時だけだ。
普段は名字で呼ぶ。
「そう。熱出したって」
「ホント、病弱なんだな」
斎藤がボソッと呟いた。
斎藤の隣、つまり、オレがさっきまで座っていたのは、ハルの席だ。
4月に入学してから、ハルが休むのは2回目。
ホント、と言ったのは、ハルが病弱なこと、オレがそんなハルのナイトだなんだと、入学早々騒がれていたからに違いない。
ハルは戸惑っていたけど、オレはハルが他の男にちょっかいかけられるくらいなら、公認カップルと言われてからかわれる方がいい。
そんなことを考えていると、ガラガラっとドアが開き、担任が入ってきた。