12年目の恋物語
午後。
次は数学か、こりゃ眠いぞ~とか考えていると、
ハルの友だち、寺本志穂(てらもとしほ)がやってきた。
「叶太くん、今日、陽菜んち、行く?」
初等部、中等部も一緒だったから、オレもよく知っている。
サバサバした気持ちのいいヤツ。
「ああ、行くよ」
ハルが休んだ日は、必ず、見舞いに行くことにしている。
プリント、宿題、ノート、届ける物はいくらでもある。
いや、何もなくても、行くのだけど。
顔を見たいし、声だって聞きたいし。
それに、何しろ、隣の家に住んでいるのだ。
「じゃあ、これ、渡しといて」
と手渡されたのは、カバーのかかった文庫本。
「……本?」
ハルは確かに本好きだけど、志穂が本を読んでいるところなんて、見たこともない。
もちろん、過去、見舞いに本を持って行くよう頼まれたこともない。
「失礼な」
志穂が笑いながら言う。
「……なにが?」
「顔に書いてあるわよ。おまえ、本なんか読むの、って」
志穂がカラカラっと笑う。
「……いや、そんなことは」
言い訳しようとしたら、志穂が遮った。
「いいの、いいの。ホントのことだから。これは、羽鳥先輩から」
「羽鳥先輩?」
って、誰?
お見舞い?
え!? まさか、男!?
「図書委員の羽鳥先輩。委員会で会ったときに預かったの」
そう言う志穂は、図書委員だ。
本も読まないのに図書委員。
立候補がいなくて、くじで決まった。
本好きのハルは、
「わたしがやりたかったな」
と残念がっていた。
委員を決める日が、ハルの入学一回目の病欠だったのだから仕方ない。
「陽菜に渡せば分かるって」
オレの狼狽を知ってか知らずか、志穂はニヤニヤ笑う。
そうして、文庫本でオレの頭をポンと叩くと、机の上にそれを置いて行ってしまった。