12年目の恋物語
「……そう」
おばさんは、ささやくように言った。
オレもツライけど、おばさんだってツライに違いない。
「じゃあ、今日は、何があったの?」
発見したときに、ハルがどんな状態だったのかは伝えた。
だけど、ハルがなぜ倒れたのかは、言っていない。
たぶん、田尻との間に何かあった。
それは確か。
逆に言うと、それしか確かなことはない。
オレにも分からないことだらけだ。
「ごめん、おばさん。オレにも分からないんだ」
そんなことしか言えない自分が情けなかった。
「そう」
数秒の間の後、おばさんはオレの肩をポンと叩いた。
「叶太くん、今日は、もう帰りなさい」
「このまま、ここにいちゃ、ダメ?」
ハルの手を握りしめたままに言うと、
「親としては、いさせてあげたいし、いて欲しいけどね。ICUだから」
ここに入れてもらって、ハルに会わせてもらっただけでも、十分だと思わなくてはいけない。
そうは分かっても、手が離せない。
「叶太くん」
再度、言われて、ようやく、立ち上がった。
「ハル、また来るよ。それまでに、目を覚ましていて」
ハルの耳元でそうささやき、オレはおばさんに連れられて、ICUを出た。