12年目の恋物語
放課後。
帰宅部のオレは、早々に家に帰って着替えると、ハルの家に向かった。
いつものように迎え入れられ、ハルの部屋に行く。
トントンと軽くノックをして、ドアを開けた。
「ハル、大丈夫?」
女の子らしく、暖色とピンクでまとめられたハルの部屋。
幼なじみだけに、過去、何度となくお邪魔してきた。
お邪魔とはいいつつ、邪魔だと思ったことはない。
だけど、今、体調の悪さだけではない、ハルの暗い表情を見て、本当に邪魔してるのかも知れないと思う。
でも、何の邪魔?
「……カナ」
のっそりと、ハルが身体を起こそうとするのを慌てて止める。
「起きなくて良いから、寝てろよ」
熱は下がったと聞いたけど、ぜんぜん、元気そうには見えない。
いや、そもそも、元気なはずはないのだけど。
「ん。ごめんね」
いつもなら、体調が悪いときでも、ハルは努めて笑顔を見せる。
無理せずに、ツラいときはツラいって顔すればいいって言うくらいで……。
いや。
ってことは、今日はよほど調子が悪い?
いやいや。
長年、ハルを見てきたオレには分かるが、そんなことはないはずだ。
「……カナ?」
「あ、ごめん!」
オレは慌てて、志穂から預かった本と、今日のノートのコピーを出す。
勉強嫌いなオレが、真面目に授業を聞くのは、ひとえにハルが休んだときに、ちゃんとノートを届けられる水準をキープするためだ。
正直、ハルは地頭が相当良いらしくて、実際のところ、オレのノートなどなくても、何の問題もない気がしないでもないが。
「ありがとう。……本?」
ハルが不思議そうな顔をして、オレが置いた文庫本に目を向けた。
「あ、志穂から預かった」
「しーちゃんから?」
ハルは更に不思議そうな顔をする。
そりゃそうだ。
オレですら、志穂と本がミスマッチと分かるのだ。
ハルが違和感を感じないはずがない。