12年目の恋物語

「正直言ってね、ボクだって、乗り気じゃないし、やりたくてやってるわけじゃない」



そりゃ、そうだ。



「ボクにもつけいる隙があるってことかな?」の羽鳥先輩なんだから。



「はい」



90度に頭を下げたまま、返事をする。



「ボクがハルちゃんをもらったって、いいんだよ」



「せ、先輩!!」



慌てて顔を上げると、先輩に言われた。



「キミには、隙がありすぎだ。それは、魅力でもあり、短所でもある」



説教モード!?

先輩は、座りなさいとばかりにイスを指さし、自分も座った。



「広瀬くん、キミは知ってるかな?

チャンスの神様には、前髪しかないんだよ。

やらなきゃどうなるとか、やったらどうなるとか、のんびり考えている間に、チャンスは逃げていくぞ」



チャンスの神様。

どこかで聞いたことがある。

親父だったか、ハルの父さんだったか……。

そんな大人が話すようなことが、一つ上の先輩の口から出てくることが、不思議だった。



この人には、とても勝てない。



逆らっちゃダメだ、味方になってくれるというのなら、すがりついてでも助けてもらった方がいい。



……たぶん。



とにかく、オレ、もう、今のままはイヤなんだ。

ハルに会えないのも、泣かれるのも、イヤなんだ。

怯えられるなんて、もってのほかで、

それを何とかする手段を羽鳥先輩が持っているのなら、

オレは死に物狂いで教えてもらうべきで。



ハルに会いたい。

ハルの声を聞きたい。

ハルの笑顔が見たい。



「申し訳ありませんでした」



オレはもう一度、頭を下げた。

次に顔を上げると、先輩は笑って、「よし」と、小さくうなずいてくれた。
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