12年目の恋物語

気持ちが伝わるか?



会って、言葉を尽くしても、伝わらなかった。

なのに、メール?



ムリだ。

伝わるわけがない。



だいたい、ハルは、メールとか、あまり好きじゃない。

そう言いはしないけど、好んでは使わない。

送ったら、返事はくれるけど、自分からは、めったに送ってこない。



なんで、そんなにハルのこと、詳しいんだよ。



「じゃあ、これ」



と、先輩は可愛らしいレターセットを取り出した。



更に、また一つ、また一つと……。

ピンク。

水色。

若草色。

花柄。

水玉。



「って! 先輩! いくつ持ってんですか!?」



「ん? 見れば分かるだろ?」



結局、十冊ほど数えたところで、ようやく品切れ。



「どうぞ」



「え? オレが、これで書くんですか!?」



同じ便せんでも、もっと普通の、男が使ってもいいのだって、あるだろ!?



「書かないの?」



厳しい声じゃないけど、笑顔の後ろの威圧感がすごい。



「いえ。

…………じゃあ、これで」



オレは、かろうじて、許容範囲、水色の空をモチーフにしたレターセットに手を伸ばした。
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