12年目の恋物語
「じゃあ、明日までに、書いてくること」
「……はい」
「放課後、ここでいいかな?」
「え?」
「添削するから」
「添削っ!?」
先輩の動きが止まる。
「あの……よろしく、お願いします」
オレは慌てて、頭を下げた。
先輩は満足そうにうなずき、それから、スッと立ち上がった。
「じゃ、明日」
「あ。先輩! レターセット、忘れてます!」
指さすと、先輩は面白そうに笑った。
「一冊じゃ、足りないだろ?」
……どんだけ、書かせる気だ!!
「そうだな。最低、10枚くらいは欲しいかな?」
10枚っ!!!
「……10枚以上ですね。了解しました」
大きめの字で書けば、なんとか……。
できるか!?
オレ、作文は、ハッキリ言って、苦手だぞ!?
「あたりまえだけど、字の大きさは適切にね。
小学生じゃないんだから」
……ですよね。
先輩はポケットから500円玉を出すと、テーブルに置いた。
「じゃ、明日」
「え! ここ、出しますから! ってか、この代金も」
とレターセットを指す。
一冊なら、そんな値の張るものでもないけど、何しろ十冊!!
「気にすることはない。……そうだな、コーヒー代のかわりに取っておいて」
つり合わないから!
慌てて値段を見ると、一冊がコーヒー代くらいする。
とオレがあたふたしている間に、先輩は、500円玉を取り上げ、ポケットに入れると、そのまま、
「じゃ、明日。楽しみにしてるよ」
と軽く手を挙げ、出て行ってしまった。