12年目の恋物語

オレは気が乗らないままに、でもハルが気にしているみたいだったので、文庫本を取り、ハルに渡した。



「えっと、図書委員の羽鳥先輩から預かったって」

「羽鳥先輩から?」



その瞬間、

それまで、曇っていたハルの表情がぱあっと明るくなった。



おい。

ちょっと待て、ハル、だから誰だよ、それ!



オレの狼狽に気づくこともなく、ハルは嬉しそうに文庫本を開いた。



「えっと、さ、」



そうして、オレは、気づいてしまった。

オレの声を聞いたハルの表情が、瞬間、サッと曇ったことに。



「えっと、……」

「ん? なぁに?」



ムリヤリ作ったと分かる笑顔を、ハルがオレに向けた。



「……え、いや、その、羽鳥先輩、って、誰?」

「2年の先輩だよ」



ハルはサラリと言った。



だけど、オレが聞きたかったのは、学年ではなく、それがハルにとって、どんな存在なのかだ。

でも、それを聞く前に、ハルが爆弾発言をしたので、オレの思考はフリーズした。



「ねえ、カナ。もう、いいよ」



「ん? 何が?」



「もう、さ、休む度に、家に来てくれたりとか、ノート取ってくれたりとか。

そういうの、全部、もう、いいよ」


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