12年目の恋物語
後、3時間。後、2時間。
わたしは、時計を見るたび、時を数える。
休み時間、叶太くんが席に来た。
わたしと陽菜の席は、けっこう離れている。
だけど、叶太くんは声を潜めて言った。
「なあ、志穂、どうなってんの?」
「ん? なんのこと?」
「羽鳥先輩が……」
「羽鳥先輩が、どうかした?」
叶太くんが、困ったような顔をした。
分かっててしらばっくれるのも、疲れるもんだ。
「ごめん。わたし、陽菜んとこ行ってくるね~」
叶太くんと、こんな風になってしまってから、陽菜は、休み時間、一人で過ごしていることが多い。
陽菜は、誰かとつるんでいないと落ち着かないっていうタイプじゃなくて、
叶太くんがいなくても、本を静かに読んだり、ぼんやり考えごとをしたり、
誰か他の人とおしゃべりしていたり、
ちゃんと一人で過ごしている。
陽菜の周りは、いつもゆっくりと時間が流れているような気がする。
そうして、必要な時には、ちゃんと声をかけてくるんだ。
むしろ、叶太くんの方が、陽菜がいない時間をもてあましているように見える。
「陽菜~」
「ん? どうしたの?」
陽菜が教室にいる、それだけで、わたしは浮かれていた。
「ねえ、今日、いいことがあるからね?」
これくらいは、いいよね?
「そう?」
陽菜は不思議そうな顔をして、小さく首を傾げていた。