12年目の恋物語
「え? ……ハ、ル?」
慌てて聞き返すと、ハルは目をそらした。
今まで見たこともないような、ハルの暗い表情。
オレの頭は、その瞬間、真っ白になった。
いったい、何が起こってるってんだ?
最近、ハルが冷たい気はしていた。
だけど、いったい、なんで!?
オレは小学生の頃から、毎日、ハルの送迎の車まで、ランドセルを持ち運ぶ係を買って出ていた。
別に、そんな係があるわけじゃない。
身体の小さなハルが、大きなランドセルをしょって息を切らしているのを見て、オレが持つことにしたんだ。
ただ、ハルが大事だったから。
少しでも、ハルの力になりたくて。
家は隣なのに、一緒には通えない。
オレは小学生の頃はバス。中学からは自転車。
ハルは特例で車送迎。
だから、オレは、車の着く裏口で、毎日ハルを待ち、ハルを見送る。
中学からは、朝夕、ハルの学生鞄を運んだ。
小学生の時は、2つ持つには重かったランドセル。
学生鞄に変わる頃には、2つでも3つでも、軽々になっていた。
一週間前、ハルは、それもいらないと言った。
「もう、高校生だし」
ハルはそう言ったけど、高校生になると、なんでやめなきゃいけないのか、オレには訳が分からなかった。
それは、オレにとっては、クラスメイトの目にさらされず、ハルとのんびり会話できる、とても貴重な時間だったんだ。
「でも、毎日毎日、悪いし」
オレがかまわないと言っても、ハルは強固に断ってきた。
結局、オレが譲らず、ハルが折れた。
でも、その後、以前のような楽しい会話はなく、話すのはオレばかり、ハルは生返事の毎日となった。
いったい、どうしたんだと思っていた。
何があったのかと。
でも、こんなの、ちょっとしたボタンの掛け違いで、きっと、しばらくすれば、元のオレたちに戻るだろうと思っていた。
なんか、オレ、やらかしたかな、と。
で、ちょっと、ハルのこと、怒らせちゃったかな、と。
だけど、どうやら、そんな簡単な話じゃなさそうだ。
なあ、ハル。
オレ、なんかした!?