12年目の恋物語
ハルと羽鳥先輩が楽しそうに、本の話をしている。
オレには何のことか、まったく分からない。
そんな、小難しそうな小説を読もうと思う気がしれない。
「お待たせ」
ハルが、さっき返した本の続編とやらを持って、オレのところに戻って来た。
羽鳥先輩は、「じゃあね」と、軽く手を振り、カウンターに向かう。
「他にも何か見る?」
オレは小さな声で、ハルに聞いた。
「ううん。今日はこれだけでいい」
「……それ、面白い?」
「面白いよ。カナも読む?」
「……いや」
「そう言うと思った」
ハルが、クスクスと笑った。
図書館を出るまでは、手をつなぐのはやめておいた。
それが、せめてもの礼儀のような気がしたから。
ハルが本を借り終わるのを待って、オレたちは肩を並べて、図書館を出る。
ハルが、オレの隣を歩いている。
ハルが、オレに笑いかけてくれる。
「ハル、大好きだよ」
ハルの耳元に顔を寄せて、そう言うと、ハルは真っ赤になった。
「カナ! やだ、こんなところで」
「もう、どこでだって、同じだよ」
オレは笑って、ハルの手を取る。
ハルは、一瞬ためらった後、キュッとオレの手を握り返した。
つないだ手から伝わるぬくもりが、とにかく気持ちよくて、
オレの心はこのまま、空を飛べそうなくらいに軽かった。
《 完 》