12年目の恋物語
気合いを入れて、わたしは、ガバッと頭を下げた。
「……田尻さん?」
牧村さん、ホント、何が起こったのか分からないって思ってる。
それが、声から伝わってくる。
それから、わたしが中々頭を上げないのを見て、
「あの。……もう大丈夫だから。気にしないで」
って、困ったような声で言った。
それでも、わたしが顔を上げないものだから、
細い手をわたしの頭に伸ばして、なぜか、よしよしってなでてくれて。
驚いて、顔を上げたわたしが見た牧村さんの表情には、
わたしを恨んでるとか、わたしを嫌っているとか、そんなのは、どこにも見当たらなくて……。
ただ、優しく、はにかむように、わたしに笑いかけてくれた。
そうして、その口から出た台詞は……。
「ありがとう」