12年目の恋物語
「叶太?」
兄貴の不審げな声に、オレはなんと答えたのか覚えていない。
何か、言い訳めいたことを口走った気がする。
目に入る景色は、まるで真っ白な霧がかかったように遠くて。
なのに、兄貴の気の毒そうな表情だけは、はっきりと見えた。
違う!
オレとハルの話じゃない!
そう主張したかった。
でも、表情だけじゃなく、思考能力も完全にフリーズしてしまったらしいオレは、心の中で、
「違う! そんなんじゃない!」
とくり返すしかできなかった。
そうして、まるで自分のものとは思えない手足を、交互にひたすら動かして、いつもの十倍は遠く感じる自分の部屋へと向かった。
とにかく、その場を離れなければと思った。
今すぐに、この、とんでもないことを言い出す兄貴の側から離れなければ、と思った。
そうしなければ、言われた言葉が現実になってしまうのではないか、そんな思いに襲われた。
違う。
違う。
違う。
ハルが、他の男を好きになったなんて!!
そんなこと、あるはずない!
そう自分に言い聞かせようとしながら、
何とか別の回答を探そうとしながら、
堂々巡りを続けたオレは、最後にようやく気が付いた。