12年目の恋物語
「じゃあ、悩みごと?」
羽鳥先輩は、わたしが作った偽りの笑顔の壁をサクッと飛び越えて、わたしの心の中に飛び込んできた。
「え……っと」
これまでに、もう数十冊は本の貸し借りをした。
本の内容について、ああだこうだ言いながら、自分の話をしたり、先輩の話を聞いたり。
悩みごとを打ち明けるような場面はなかったけど、自分だったらこうしたとか、先輩だったらどうするとか、そんな話もしていた。
だから、先輩がそう聞いてきたのも、とても自然に受け止められた。
「女の子の友だちができないんです」
そう言ってから、慌てて言い直した。
「あの、いえ。普通にしゃべる子はいるんですけど、あの……親友が」
「そっか」
先輩は、いつものように、そのままだとキツく見える切れ長の目を細めて、優しく笑った。
「女の子は、やっぱり親友とかって欲しいんだね」
「え? 男の子は違うんですか?」
そんなことを話していたら、カウンターに生徒がやってきた。
わたしたちは、慌てて会話をストップした。