12年目の恋物語
それから少しして、その日のカウンター当番が終わった。
校舎に向かって、羽鳥先輩と一緒に渡り廊下を歩く。
「きっと、さ」
羽鳥先輩が、前振りなく、話し始めた。
「友だちなんて、作ろうと思って作るものじゃないし、親友なんてなろうと思ってなるものでもない」
作ろうと思って作るものじゃない。
なろうと思ってなるものでもない。
先輩の言葉が静かに耳に飛び込んできた。
「気が付いたら友だちになっていた。
この子、もしかしたら親友かもってそう思っていた、
そんなもんじゃないかな?」
羽鳥先輩は前を見たまま、そう言って、それから、わたしの方に視線を移した。
「ハルちゃん、おしゃべりするだけの友だちなら、もういるでしょう?
それ以上の友だちなんて、持っている人の方が少ないと思うよ」
そうして、微笑を浮かべると、わたしの背中をトントンと二度、優しく叩いた。
気がついたら友だちになっていた。
この子、もしかしたら親友かもって、そう思っていた。
先輩の言葉が、ストンと胸に落ちてきた。
胸にしみいるように、その言葉が、わたしの中に落ちてきた。
わたしたちは、その後、しばらく無言で歩いた。
渡り廊下を渡り終えて、迎えの車が来る裏口に行く分かれ道のところで、わたしは立ち止まり、先輩を見上げた。
「ありがとうございます」
心からの笑顔でお礼を言った。
「どういたしまして」
羽鳥先輩もにっこり笑った。
あの頃と変わらず、先輩は優しかった。
あの時とは違って、何も言えないのに、先輩は、何も言えないわたしを受け入れて、ただ、そこにいてくれた。
先輩の隣では、楽に、自然に、息をすることができた。