12年目の恋物語
「あっ」
ちょうど反対の通路から、噂の羽鳥先輩がやってくるのが見えた。
思わず、声を上げると、先輩はオレを見て、怪訝そうな顔をした。
その後、ああ、というような表情で、妙に頭の良さそうな、切れ者顔に笑顔を浮かべた。
「広瀬叶太くんかな?」
え!?
まさかのフルネーム。
オレは羽鳥先輩の名も顔も、最近知ったばかりだと言うのに。
逃げ出したい衝動に駆られたが、先輩相手に、先に声を上げたのは、こっちだ。
今さら知らん顔もできず、オレはバカみたいに、数回、縦に頭を振った。
「やあ、何か用?」
口を開かなければ、間違いなく頭の良さそうな切れ者風のイケメン。
なのに、口を開けば、妙に笑顔が可愛くて好感度抜群……って、反則だろ!?
「えっと、あの……こんにちは」
挨拶なんかして、どうする、オレ!
先輩は、クスクス笑いながら、
「こんにちは」
と返事をしてくれた。