12年目の恋物語

「ねえ、聞いてる!?」



田尻さんの声が、わたしを現実世界に引き戻した。



「叶太くんが、なんで、あなたに優しいと思ってるの!」



……なんで、カナが優しいか?

なんで?

理由なんて、あるの?



だって、カナは、昔から、ずっと優しかった。

怪訝な顔をしているわたしを見て、田尻さんは舌打ちをした。



「あなたの身体のこと、責任を感じているんじゃない!!」



……責任?

わたしの身体に? カナが?



「……どうして?」



多分、わたしは、困った顔をしていたと思う。

だって、本当に分からなかったから。

……その時は、まだ、知らなかったから。



カナが、そんなことを考えていたなんて。



「信じられない!! 忘れてるの!?」



田尻さんが、吐き捨てるように、そう言った。



「……え?」



力いっぱい悪意をぶつけてくる田尻さん。



「信じられない!!」



再度、そう言って、わたしをにらみつけてから、田尻さんは続けた。
< 5 / 203 >

この作品をシェア

pagetop