12年目の恋物語
7.斎藤の思い
「だって、しょうがないだろ!? ハルを世界一好きなんだからさ」
オレの呆れた視線をものともせず、広瀬はぬけぬけと言った。
目の前の友人、広瀬叶太は、はっきり言って変わっている。
いや、変わっていると言うのとは、少し違うかも知れない。
なんていうか、とにかく、一途なのだ。
4月、入学式の日から、コイツの話は主に女子たちの口から噂になっていた。
「ハルちゃん、幸せだよね~!!」
「うらやましい!」
「わたしも、あんな彼氏欲しいなぁ」
「ムリムリ」
「ええ~。なんでよ~」
そんな中等部からエスカレーター組の女子たちの言葉。
彼女たちは、広瀬って男がいかに、その「ハルちゃん」とか言う女の子に夢中なのかを、楽しげに話す。
毎朝毎夕、ハルちゃんの送り迎えをし(と言っても車から教室までだというが)、
ハルちゃんが休むとプリントやら宿題やらを必ず届け、
身体が弱いハルちゃんのために小学生の頃から、必ず保健委員に立候補しているらしい。
入学式のパイプ椅子の上で、そんな話を小耳にはさみ、恋愛とか女の子にはまったく興味のないオレは、
ホントか、おい?
と思わず、声に出さず突っ込みを入れた。
いったい、どんなヤツだと思っていたら、同じクラスだった。
だけど、実物の広瀬は思いの外、まっとうな人物だった。
明るくて元気なクラスのムードメーカーみたいなヤツ。
友だち多そう。
それが第一印象。
実物を見る前に噂を聞いて、どんな軟弱な男だと思っていたので、正直、意外だった。