12年目の恋物語
「年中になってから、あなた入園してきたじゃない」
「うん」
わたしは心臓が悪くて、
3歳の頃は、体調が悪い日も多くて、発育も遅くて、しかも3月生まれで身体もかなり小さかったらしい。
だから、年少さんの年は、家でのんびりさせることにしたと聞いている。
たくさんのオモチャ、たくさんの絵本、優しい先生、小さくて可愛いお弁当箱。
それから、初めて見る同い年の友だち。
年中さんから通い始めた幼稚園は、キラキラ輝いていた。
よく覚えてる。
「それで!」
わたしの注意を引き戻すように、田尻さんが強い口調で続けた。
「入園して、1~2ヶ月した頃、牧村さん、幼稚園で倒れて、死にかけたじゃない」
「……うん」
うんって言ったけど、でも、実のところ、よく覚えていないんだ。
走っちゃいけないと、飛び跳ねちゃいけないと、踊ってもいけないと、言われていた。
物心ついたころから、自分は走れないんだと思ってた。
だけど、幼稚園では、みんな走り回ってる。
だからか、わたしも走ってしまったらしい。
そして、当然のように、発作を起こして倒れて、1ヶ月以上も、生死の境をさまよった……らしい。
後から、聞いたところによると。
わたしの反応が気に入らないのか、田尻さんが、また舌打ちをした。
「あの時、本当は走っちゃいけないあなたを、走らせたのが叶太くん他、数名の男の子」
「……え?」
「叶太くんは、それを気に病んでいて、
それで、ずっと、あなたの世話を焼いてきたんじゃないの!!」