12年目の恋物語

いい知恵も浮かばないし、まずは腹ごしらえ、と黙々と食べ始めて数分経った頃。

左手にご飯の入った茶碗。右手にお箸というスタイルで、手を止め、志穂が言った。



「ねえ、斎藤くん、呼ばない?」



……は? 斎藤?



思いもかけない名前の出現に、オレの手も止まる。



「なんで?」



志穂が言葉を探すように、一瞬、視線をさまよわせた。



「だって、なんか、わたしたちだけで話してても、解決する気がしないんだもん」

「や、でも」

「なに? 叶太くん、斎藤くんを呼ぶの、イヤなの?」

「イヤって言うか、」



斎藤には、既に、あれもこれも話していて、だけど、ろくに相手してもらえてないから。

と、思わず、頭をかくと、志穂がまたビシッと人差し指を立てた。



「三人寄れば、文殊の知恵」



三人でなら、色々知恵も浮かぶ。

……まあ、確かに。



「でも、なんで斎藤?」

「陽菜の隣の席だし、叶太くんとも仲良さそうだから」

「そんだけ?」

「えっとね。斎藤くんも、陽菜と叶太くんのこと、心配してるみたいだったから」

「あ、そうなんだ」



そう言うと、志穂がオレをマジマジと見た。



「叶太くん、真剣味が足りない」

「え? そんなこと」

「もっと、捨て身になった方がいいよ」

「……なんで?」

「陽菜、可愛いじゃん。すっごくいい子だし」

「ああ」



それは、もう、文句なしに。



ハルのことを考えると、思わず、顔がにやける。

それを見て、志穂が呆れたように言った。



「もし、叶太くんとうまくいってないなんてバレたら、

名乗りを上げる男子、たぶん、いくらでもいるよ」
< 79 / 203 >

この作品をシェア

pagetop