12年目の恋物語
気がついたら、つぶやいていた。
「……羽鳥先輩」
その名前に、志穂が反応した。
「え? 羽鳥先輩がどうしたの?」
それから、オレの微妙な表情を察したのか、志穂は目を大きく見開いた。
「えええ!? なに!? もしかして!!!」
その声の大きさとテンションに、店内の客からの注目が一気にオレたちに集まった。
「おい、志穂、声大きいって!」
斎藤も大きな身体を縮めて、シーッとジェスチャーで「静かにして」と伝える。
「ごめん!」
志穂もキョロキョロ周りを見渡して、ぺこりと頭を下げた。
でも、声は小さくなったけど、テンションは下がらないらしい。
志穂は、オレのこと、ジロリと睨んでから続けた。
「で、なに? 叶太くんは、陽菜と羽鳥先輩のコト、疑ってるの!?」
「いや、そう言うわけじゃ、ないんだけど……」
「じゃ、どう言うわけ!?」
正直、なんで、オレが怒られるんだよ、と思った。
でも、志穂の怒り具合を見て、ホッとした。
なんだ、やっぱり、そんなことあり得ないんだ、って。
「こら、吐け。まだ、何か隠してるんでしょ」
さっきの爆弾発言のせいか、志穂は疑いのまなざしを向けてくる。
仕方なく、オレは考えたくもない、兄貴の言葉を口にする羽目になった。