12年目の恋物語
「……太くん、叶太くん!!」
「おーい。広瀬~」
店のざわめき。
照明の明るさ。
ウェイトレスが注文を取る声。
どれもが、あまりに遠い世界に行ってしまった。
「叶太くん」
「広瀬~」
目の前にひらひら振られる手に、
肩に置かれた手に、
無造作に耳に届く2人の声に呼ばれて、
ようやく、世界が戻って来る。
「大丈夫?」
「……あ、うん」
大丈夫か?
もし、それが本当だったら、
ぜんぜん、大丈夫じゃない。
けど、
そんなことない!!
あるはずないって、
信じてるから!!!
「……大丈夫」
って、言ったけど、
結局、オレはまったく大丈夫じゃなかったらしく、その日は、そこでお開きになった。
志穂が、続きは週末にって、テキパキと斎藤とオレの予定を押さえた。