12年目の恋物語
「陽菜」
誰かが呼んでる。
目を開けなくちゃと思うのに、まぶたは重くて。
「陽菜」
誰かが、わたしの腕を取る。
「陽菜」
もう一度呼ばれて、ようやく、わたしは目を開けることができた。
「……ママ」
声がかすれている。
息苦しい。
「起こしてごめんね」
「ううん。病院は?」
わたしの病院のことじゃない。
ママの仕事場のこと。
ママはお医者さんだから。
休みは不定期。
土日だっていないことが多いし、たまの休みでも呼び出されたら飛んで行く。
「今日は休み」
「……そう」
そのまま、また目を閉じると、ママがわたしのほっぺたに触った。
暖かい手のひら。
「陽菜。寝ないで。薬飲まなきゃ」
「あ、……そっか」
ママがわたしの身体を抱き起こそうと、背中に手を入れた。
ぐいっと背中が起こされる。
相変わらず、力持ちだなぁ、ママ。
もう、わたし、小さな子どもじゃないのに。
渡されるままに、薬を飲んで、また横になる。
意識が途切れる前、ママが点滴の用意をしているのが見えた。
親がお医者さんだと、こういう時、便利だ……と思う。
でも、本当は、いつも一緒にいられないから、ちょっとだけ寂しいんだ。