12年目の恋物語

「大丈夫」



ママが身体を少し起こして、私の頭をそっとなでた。



「大丈夫だから」



……なにが?



顔を覆っていた手をどける。

つむっていた目を開ける。



目の前で、ママが優しく笑っていた。



「わたしだってね、陽菜くらいの年頃に、母親に悩みを打ち明けたり、していなかった」



ママから、おばあちゃんの話を聞くのは初めてだった。

ママの方のおばあちゃんは、わたしが生まれる前に亡くなっていて、わたしは会ったこともない。



「だから、話せなくても、いいの」



ママは何度もわたしの頭をなでる。

頬に手を添える。

枕元に置いてあったタオルで、わたしの涙を拭く。



「ムリに聞き出そうなんて、思ってないから」



「……ママ」



「でも、話したくなったら、いつでも相談に乗るから」



ママ。



「ごめんね。頼りない母親で」



ママ。



ぜんぶ話してしまいたい思いに駆られる。

誰かに、ぜんぶ、ぜんぶ話してしまいたい思いに駆られる。



話してしまったら、もしかしたら楽になるのかもしれないと、思って。



また、涙があふれる。



それでも、話す相手はママではなかった。



何より、

ママだけでなく、誰にも話せる気がしなかった。



だって、わたしは、きっと、赦されたいだけだから。



話して、陽菜は悪くないよって、誰かに言って欲しいだけなのだから。
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