教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「先生!」


あたしは叫んだ。


しかし、返事はない。


「先生ーっ」


静まり返る部屋。


まさか…あたしが寝ている間に帰っちゃったの?


その時だった。


「おっ、おはよう」


スーツ姿でひょっこり先生が現れた。


「何やっていたんですか?」


「シャワーのついでに着替えてた」


あたしはいわゆるギャグとかコメディーの範疇に値するマンガ並に派手にずっこけた。


心配して損したな。


「あーあ、心配したのに」


ぶつぶつ言いながら着替えを始める。


「わかったからそう怒るなよ」


何がわかったんだか。


ご機嫌を取るようにキスをされると「そんなくらいであたしの気持ちは変わらないんだから」と思う。


なのに…。


キスをしている今が特別な時間に思えてしまう。


もうこの溢れる気持ちを止めることは自分でも出来なかった。


感情だけが先走っていく。


そしてまた、昨夜と同じように先生に堕ちていく。


この甘美なときめきを知ってしまったあたしは、もう元には戻れないと思う。









再び目を覚ますと先生は隣で寝ていた。


さっきまでのことが夢に思えた。


あたしの頭はまだ余韻に浸っているらしく、ぼんやりとしている。


しばらく今という確かな幸せを噛みしめて、自然と眠りに落ちていった。
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