教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
-放課後-


あたしは教育実習生の控え室に行った。


翔君と話したい。


この3年間のことを。


ガチャッ。


「失礼しまーす」


控え室と言っても、会議室をカーテンで区切って部屋みたいにしただけの場所だ。


カーテンの向こうからは、化学の課外授業をやっているらしく、電気分解だのファラデーの法則といった単語が聞こえてくる。


残念ながらあたしは文系クラスで、文系は化学はやらないので詳しくはわからないが。


生物なら得意なのに。


植物細胞における緊張状態とか、あるいは原形質分離とか…って今はそれどころではなかったんだっけ。


「翔く…いや、神沢先生」


控え室にいたのは翔君と知らない教育実習生の人が数名だった。


「はい?」


翔君は返事をしてこちらを見る。


「先生、ちょっと…」


手招きしながらあたしは言う。


「はーい」


目を逸らしておいてなにが「はーい」よ!


と、心の中でひそかにツッコミをした。


彼を廊下に連れ出し、確認のために、最初にこう聞いてみる。


「あの、間違ってたら申し訳ありませんが…翔君だよね?」


一瞬の沈黙の後、彼はふっと笑って言った。


「名簿見て驚いたよ。まさかこの学校に来てたなんてね。…水香ちゃん」
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