教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「先生、どうしたんですか?」


「なんでもないよ」


そんなはずない。


冷や汗かいている上に、青ざめた顔でそう言われたって信じられないよ。


「嘘なんじゃないんですか?」


「本当だよ」


そう言って今度は、ぱっと目を逸らす。


「先生!」


どうして本当のことを言ってくれないの?


そんな思いが走ってあたしは無意識に強く先生のスーツをつかんだ。


「やめろ!」


バッとあたしの手が乱暴に振り払われる。


一瞬、先生が違う人に見えた。


沈黙と緊張が走る。


「…ごめん」


先に口を開いたのは先生だった。


「いえ」


「実はラップにちょっとしたトラウマがあってさ」


「トラウマ?」


「俺って小さい頃、ラッパーの男に殴られそうになったことがあったんだ」


先生の目は遠くを見ている。


きっと遥かなる遠い日々をたどっているのだろう。


「えっ。先生、何かしたんですか?」


「いや、ただ見ていただけ。だけどガンつけているとでも思ったんだろうな。殴られそうになってさ」


「ひどい…」


「理不尽だよな。だが、この世ってそういうものだよ」


「先生?」


「理不尽で無情で他人の痛みなんてもちろんわからない。俺もその1人だと思うとやりきれないんだよな」


先生?
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