教壇と愛の狭間で～誰も知らない物語～

ガタンガタン｡


ガタンガタン｡


あたしはぼんやりとした頭で帰りの電車に乗っていた｡


昨日の今頃は先生といたんだ｡


そう思うと泣きたくなる｡


あたしはケータイを取り出した｡


ディスプレイには春の日差しのように微笑む先生とあたしが映っている｡


それを見てから待ち受けを風野君の画像に変える｡


この画像は先生と出会う前に待ち受けにしていたものだ｡


これでいいんだ｡


これで…｡


そう思うのにギリギリと胸が締め付けられた｡


まるで何かで縛られているみたいに｡


いらだったあたしはさっきまで待ち受けにしていた先生とあたしの写メを削除しようとした｡


しかし､「削除しますか?」の問いに対して「はい」という選択肢を選ぼうとするのに指が震えてしまう｡


たとえ右手の親指がボタンに触れてもそれ以上の力が出ない｡


ふと､諦めて待ち受けに戻したディスプレイの一部分が歪んだ｡


落ちた涙で滲む風野君の顔｡


どうして泣いてしまうのだろうか｡


あたしはいつからこんなに泣き虫になったの?


先生に逢うまではどんなにタフな状況でも泣かなかったのに｡


なのに先生と出会ってからは泣いてばっかりだ｡


遠ざかる先生の後ろ姿が脳裡に蘇る｡


先生｡


行かないで…｡