教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「水香ちゃん!?」


翔君はあたしの予想外の行動に驚いたらしい。


「授業、始まっちゃうよ」


「いいの」


「良くないだろ」


翔君はいかにも大人のようにあたしをたしなめる。


いや、もう彼は大人だけど。


「だってこうでもしないと」


わがままだなんて百も承知。


あたしが一歩も引かないとみた翔君は言った。


「…わかった。君の好きにしたらいい。だけど責任は取れないぞ」


「ありがとう」


そうして無理矢理に教育実習生の控え室で先生を待たせてもらっていた。


しかし、先生が来ないうちにも残酷な時計の針はどんどん進んでいく。


そして…。


キーンコーンカーンコーン。


予鈴がなってしまった。


翔君は申し訳なさそうに、そろそろ行くと告げて控え室を出ていった。


1人ぼっち。


急に部屋が静かになった気がする。


翔君もあたしも騒いでいたわけじゃないのに。


自然と思考もマイナスになっていく。


やっぱり先生は来ないのかな。


こんなことしたってよけいに嫌われるんじゃないかな。


でもこうでもしないといつ、あたし達、完全にバラバラになるかわからないんだもの。


その時だった。


ガチャ。


「先生!?」


確認もしていないのに、あたしは自然と言っていた。
< 118 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop