教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「はい、じゃ今日はここまでね。次回は国風文化についてやります」


結局、授業は全然聞いていなかった。


いや、聞けなかった。


頭が先生のことばかりで。


最近、ずっとそう。


先生のことばかり考えて授業に全然集中出来ない。


来年のあたしは受験生なのに。


しかも今日は6月2日。


大学にもよるけど、AO入試などを利用する場合、「もう出願期間だ」などと騒ぐ人がいてもおかしくない時期。


なのにあたしはこんな調子。


休み時間になってまわりが一斉に騒ぎ出すけど、あたしだけは騒ぐ気になれなかった。


ただ机に突っ伏していた。


目を閉じれば微笑む先生の顔。


太陽よりもまぶしい。


次は英語の授業。


あんなことがあったせいか気まずい。


だけど時間は過ぎる。


先生の顔を見なくてはならない時がやってくる。


キーンコーンカーンコーン。


ガラガラッ。


「はい、じゃ起立」


あの凜とした涼やかな声が教室に響く。


「キャー!」


「湊典様、来てくれたのね!」


「来ないと思っていたから感激だわ」


「あぁ、もう涙が…」


「嬉しい!」


まわりは喜ぶ人ばかり。


先生もいつもの少しクールな表情。


さっきのあたしに向かって叫んだ先生の顔の面影なんて微塵もなかった。
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