教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
カッカッカカッ。


黒板とチョークがぶつかり合う音が教室に響く。


チョークは軌道を黒板に残し、それと共に無数の粉を散らす。


そのチョークをつかむすらりとキレイな先生の指。


かつてはあたしに触れてくれた指。


ねぇ。


また、望んじゃいけない?


先生の指に触れられることを。


もはやチョークにまで嫉妬してしまう。


キラリ。


急に先生の指に光るものが目につく。


結婚指輪。


ずっと、見ないようにしていた。


お互いに愛するようになった時から。


なのに失ったら急に視界に飛び込んでくる。


まるで「これでいい。別れて正解」って言っているみたいに。


これでいいわけないのに。


こんなラストなんてありえない。


どうせ終わってしまうならハッピーエンドがいい。


この気持ちを声が枯れるまで叫ぶことが出来たら、どんなにいいだろう。


あたしの想いはこんなに強いのに。


それだけじゃダメなの?


あたしじゃどうすることも出来ないことなの?


先生は答えない。


ただ流れるような美しい字を黒板に書き、ただなめらかな英語を発しているだけ。


しょせんは独りよがりってやつ。


頭にこんな言葉が浮かぶ。


「覆水盆に返らず」



もう…元には戻れないのかな。
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