教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
あたしと一緒に?


「先生、それってどういうことですか?」


「だから、お前と」


そこで先生は自分の結婚指輪を抜き、あたしの左手の薬指にはめる。


「こういうことだよ」


顔をそむけながら先生は言った。


つまりこれは結婚?


心の奥から何かがわき上がる。


きっと、愛おしさと切なさ。


ああ。


どうしてこんなに心はつながっているのに、別れなきゃいけないんだろう。


先生はまた先ほどのようにあたしを抱きしめる。


「もうすぐこの手でお前に触れることはなくなるんだな」


本当だね。


先生のすべてを独占出来る時間も、もう…。


そう思うと寂しさが募る。


先生と過ごした日々は現在進行形ではなく、過去の思い出になってしまう。


そして何より先生に会えなくなる。


「いない」のなら会いに行けばいい。
だけど「会えない」なんて耐えられるかわからない。


「このまま時間が経たなければいいのに」


あたしはいつか言ったセリフをまた呟いた。


「本当だな」


先生はいつかと違うセリフ。


そうして時間だけが過ぎていく。


キーンコーンカーンコーン。


やがて無情なチャイムが耳に響く。


「先生、もう少しこのままいてもいいですか?」


「ああ」


あたし達はしばらく抱き合っていた。


まるで「これが最後」って言っているみたいに…。
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