教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
現れたのは先生だった。


「湊典!」


沙奈さんはうろたえる。


「お前、裏では俺のこと、森田って呼んでいるんだな」


先生は彼女をギロリと睨む。


「それはっ」


「まぁ、いい。俺が言いたいのはそんなことじゃない」


ここで先生は言葉を切る。


そして一瞬だけ目を閉じて沙奈さんを再び見て言う。


「しかし、さっきまでのお前らのやりとりを見て思ったぜ。こんな性悪女と結婚しちまったなんて俺も落ちたものだな」


「はぁ!?」


沙奈さんは怒りのあまりに、今にも先生につかみかかりそうだ。


そんな沙奈さんの様子に構うことなく、先生はなおも言う。


「そのままの意味さ。それくらいわかれよ。ここで1つ言っておきたいことがある」


「何よ」


「水香は関係ねぇ。そいつには二度と手を出すな」


そう言って先生は守るかのようにあたしを抱き寄せる。


先生にいきなり水香と呼ばれて、あたしは顔が瞬く間に真っ赤になってしまった。


沙奈さんはそんなあたし達を見下すような視線を送りながら言う。


「ふん。相当仲がいいみたいね。でも忘れないで」


「なに?」


「あなたは私の夫で、某有名会社の跡継ぎ息子。私と結婚したことで折田財閥の力が手に入っているのよ」


「だからなんだ」


先生は更に鋭いまなざしを沙奈さんに向けた。
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