教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「水香」


涙が乾いてどれくらい経っただろう。


長い沈黙の後、先生があたしの名前を呼んだ。


「はい」


「たとえこんな運命でも、俺が好きなのはお前だけだ」


「あたしもです」


「I'm sorry my beloved.I cannot love you more.Please forgive me.」


「先生?」


「昨日の授業中、お前に向けて言ったんだが」


「よくわかりませんでした」


「「すまない。我が愛する人よ。私はもう、これ以上お前を愛することは出来ない。許してくれ」っていう意味だよ」


「そうだったんですか」


意味なんてまったくわからなかった。


「水香、愛している」


先生に強く強く抱きしめられる。


「先生」


「湊典って呼べよ」


「こ、湊典…先生」


あまりの恥ずかしさに、ささやくような声しか出ない。


このままずっといれたら。


だけど時間は止まることを知らない。


どうあがいても止まることは決してないし、ビデオみたいに巻き戻しも早送りも出来ないんだ。


しばらくの抱擁の後、先生が呟く。


「そろそろ帰らなきゃな。親御さん、心配しているだろ」


「わかりません」


「子供を心配しない親なんていないからな。さ、帰るぞ」


「はい」


あたしは先生と並んで夜の道を歩き始めた。


いつもは白銀の美しい月も、今日は哀愁に満ちているように見えた。
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