教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
学校に着き、重苦しい気持ちで教室のドアを開ける。


「おはよう、水香」


陸がいつもの笑顔で話しかけてくれた。


「陸、おはよ…」


「元気ないね、どうしたの?」


「なんでもないよ」


陸の心配そうな視線を背中に浴びながら机に荷物を置いたあたしは、教卓の上にある砂時計をひっくり返した。


これは小テストで時間を計る時などに使うものである。


ひっくり返した砂時計のガラスの中で、蛍光ピンクの色をした砂が止めどなく落ちていく。


砂時計が止まらないのは物理学的に言えば、重力が云々とかいう話なのかもしれない。


だけど今は時間が止まらないからのように思える。


違うのだろうが、今はそう思った。


そう考えている間にも砂は少しずつサラサラと落ちていく。


先生との恋に溺れていた時は永遠も信じていられた。


だけどきっと永遠なんて存在しない。


砂時計が、世界中の時計がすべて止まらない限り時は刻まれていく。


永遠が存在しないなら、せめて信じていたかった。


ただまっすぐな道のように先生との未来があると思っていたかったのに。


こうして今も目の前の砂時計だけでなく壁の時計も、あたしのケータイも、陸の腕時計も時を刻んでいる。


こうしている間にも、先生との別れの時は一刻一刻と近づいているんだ。


逃げたい。


でも永遠と同じく、時間から逃げる方法も存在しない。
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