教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「最後だったわけですが…。えっと、最初は不安で失敗を恐れたりもしました。でもみなさんが親切にして頂いたおかげで、この1ヶ月間楽しく過ごせました」


先生の目には光るものがあった。


「ちょっと突き離したり、からかったり、自分の本心隠したり、すぐ泣いたりする奴もいましたが、それも本当に良い思い出です」


先生、それってあたしのこと?


あたしの方を見ている。


「ここで得たものはきっと、これからの人生に少なからず影響を与えると思います。この学校に来れて、本当に良かったと思います」


先生だけではなくまわりの女の子達もみんな泣いている。


「湊典様…」


「離れたくない…」


「嫌だわ…」


あたしだって嫌だよ。


「最後になりますが、みなさん、そして石野先生と出会えましたこと、誇りに思います。今までありがとうございました」


一礼する先生に、感謝と惜別のこもった拍手の嵐が降り注ぐ。


そんな中、あたしだけは拍手出来なかった。


拍手したら別れを認めてしまうような気がした。


別れたくない。


嫌だ。


先生が教室を出ていく。


だけど追いかけられない。


掃除が始まるから。


こうなったら…。


「ごめん、真奈美ちゃん、清美ちゃん!ちょっと掃除抜けるわ」


「え、水香ちゃん!?」


あたしは先生を追いかけ、廊下に飛び出した。


しかし、掃除を始めた生徒が行く手をふさぎ、先生はどんどん遠ざかっていく。
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