教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「先生!」


校門の近くのあのベンツの前でようやく追いついた。


「水香!」


「先生、どうして今日が最後だったって教えてくれなかったんですか?あたし、来週もまた会えると思っていたのに」


「面と向かって言ったらきっと別れられなくなる。だからこうしたのにお前が来るから…」


そこで先生に抱きしめられ、ささやかれる。


「手放したくなくなっちゃったじゃねぇか」


「手放さないで下さいよ」


「わかっているのか?おとといの妻の、あいつの言葉の意味を」


「わかっています。だけど罪を背負って生きる覚悟はあります。あたしはそんなものに屈するほどやわではありません」


「泣き虫なくせに」


本人はぼそっと言ったつもりだろうが、あたしにはしっかり聞こえていた。


「あっ、先生ひどい」


「本当のことだろ?」


先生はゲラゲラと笑い出す。


「もうっ!」


顔を赤くしてやけになってポカポカと先生を叩くあたしを見て、彼は更に笑う。


先生はひとしきり笑い終わると真剣な表情になった。


さっきまで大爆笑していた人とは思えない。


「なぁ、水香」


「はい」


「きっと、きっと逢いに行くから」


「え?」


「生まれ変わったらお前に逢いに」


「はい」


「だから…なのに…どうして涙が止まらないんだよ…」


いきなり泣き出す先生を見て戸惑うだけのあたしがいた。


「先生、ありがとうございます」


「へ?」


先生はあたしの言葉の意味がさっぱりわからなかったらしい。


まぁ、ずいぶんとまぬけな声だこと。


当たり前か。


「だから、こんなあたしを好きになってくれてありがとうございます」


「それは俺のセリフだよ。こんな身勝手で傲慢な俺を」


「そんなことないですよ」


先生はふふっと笑った。


「お互いをここまで受け入れられるなんて、俺達、結ばれているのかもな」


「え?」


「運命の赤い糸」
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