教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
ドキッとした。


別れが迫っているのに、そんなドキドキするようなこと言わないでほしい。


戻れなくなる。


「じゃあ、先生」


「ん?」


「あたし達の出逢いは偶然ではなく、必然だったんですかね?」


すると先生がふっと笑うので、こんなことを言った自分が急に恥ずかしくなってしまった。


しかし、先生の口から出た言葉は違った。


「当たり前だろ」


一刻一刻と別れは近づいているのに思ってしまった。


先生にここまで愛されるあたしは幸せだって。


その思いが一層別れをつらくさせる。


「先生…別れたくないです」


「俺もだ」


「嫌だ。別れなんてなければいいのに」


「でも出会いの数と別れの数はいつだって等式で結ばれる。不等式が登場することはない」


「だけど」


「人間である以上、いや、神を上回るくらいの多大なる存在でない限りは、仕方ないことなんだよ」


小難しい言い方をする先生が、あたしにはわからなかった。


「どうして先生はそんなに割りきれるんですか?」


「だって約束しただろう?また逢いに行くって。だから少しの間離れるだけだよ」


「でも」


「心配するなよ。俺がお前をさがしに行く。たとえお前がさがし出せなくても俺が絶対に見つける」


「本当ですか?」


あたしの問いに先生は力強く答えた。


「必ず」


夜空の星のように美しいその目には偽りなどなく、ただただ固い決意が見られただけだった。


少し間を空け、あたしは言う。


「約束ですからね」


「もしまた逢えたら今度は俺達、普通の恋人になりたいな」


そう切なげに笑う先生を見て、あたしにまで切なさが広がる。


「じゃあ、来世では結婚して下さいよ」


「俺でいいのか?」


「はい」


「本当か?まさか浮気なんかしないだろうな?」


「当たり前ですよ…ってなんだか今のあたし達、バカップルみたい」


「確かにそうだ」


あたし達は声をあげて笑った。


このままずっとこの穏やかな時間だけが過ぎていけばいいのに。


そう思わずにはいられないくらい、まるで春の木漏れ日のように優しくて温かい時間だった。
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