教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
ねぇ、先生。


あなたとはたった1ヶ月だったけど、今までにないくらい中身の濃い時間を過ごせたと思う。


確かに何回もすれ違った。


時には涙だって流した。


だけど思うんだ。


それもまた尊い経験なのだと。


つらかったり苦しかったり、そういった自分の経験を踏み台にして今の自分がいるのだと。


だって今のあたし、輝いている。


なんだか変われた気がする。


以前のあたしはこんなに穏やかな気持ちになったことあったっけ?


最近、そう思うことがあるから。


それに今までの逆境に耐えられたのも先生がいてこそ。


先生はたくさんの大切なものをあたしに教え、与えてくれた。


関係は不純だったけど、汚れなき無償の愛をくれたのも先生だった。


本当に先生と過ごした1秒1秒がダイヤモンドの放つ輝きみたいにきらめいていたんだ。


最後に言い忘れていたこと、伝えます。


ありがとう。


そう心の中で先生宛てのつたない手紙を密かに作成したのだった。


カツカツとあたしの黒いハイヒールが音を奏でる。


歩いているうちにあたしは社長室の前にやって来ていた。


封筒などを片手に分厚い社長室のドアをコンコンとノックする。


「はい」


「失礼します」


顔も知らない社長の返事を確認して、あたしはドアノブに手をかけた。


先生の記憶と新たな希望を胸にして、ただあたしは前を向いて未来を突き進むんだ。


窓から差し込む光が、なんだかまぶしく感じられた。
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