教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「あぁ、そんなの簡単な理由さ」


あまりにも翔君があっけらかんとして言うので、あたしは少し拍子抜けしてしまった。


「簡単?」


「うん。この前、駅前のスーパーで叔母さんと会ったからさ」


あー、母から聞いたのね。


そこであたしの話になって。


それで教員採用試験に受かって、今や立派な高校教師となった翔君に相談したってことね。


本当に簡単だ。


「で、それで本題は結局何なの?」


「ああ。水香ちゃん、君は就職するつもりなんだろう?」


「うん」


「そして就職先が決まっていない」


「うん」


「でも締め切りは近いんだな?」


「うん」


「そんな君のために、僕がいい就職先を見つけてきたんだ」


「へ?」


予想もしない展開に、あたしは実に間抜けな声を出していた。


そんなあたしをスルーして、翔君は白い紙をクリアファイルから取り出して言った。


「それがここさ」


「エムアールティー証券株式会社?って、ここってかなりの大企業じゃない!こんな会社、あたしなんかが入れるはずがないわ!」


翔君はあたしの反応を予想していたらしく、軽く頷いてから言った。


「そう言うと思って、用意してきた」


「何を?」


「切り札(ジョーカー)」


「んんん?」


間抜け面のあたしに、翔君はすっと何かを取り出した。
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